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時空の絆

第5章 自立


「龍馬さん、何を……! 彼女は、私の孫なんだ!」

「わかっちゅう! じゃからこそ、わしが預かるがじゃ! このままじゃあ、この子はあんたの影に怯えて、自分の足で立つことを忘れてしまう。先生、あんたは『歴史』を背負いすぎちょる。少し、この子を信じて放してみんかえ」

私は、龍馬さんの背後にいる桜子さんを見た。
彼女は俯いたまま、私の目を見ようとしない。ただ、その手は龍馬さんの袖をぎゅっと握りしめていた。その手が、彼女の今の心の拠り所が私ではないことを、残酷なまでに物語っていた。

「桜子さん……」

「……ごめんなさい、先生。でも、私……今のままじゃ、先生のそばにいても、何をしていいか分からなくなっちゃう」

消え入るような声。
だが、そこには彼女なりの、必死の拒絶と決意が混ざっていた。

「……分かりました。龍馬さん、桜子さんを……お願いします」

私は、突き出された龍馬さんの手を見つめ、力なく引き下がった。
医師として、家族として、これほど敗北感を感じたことはなかった。

「案ずるな、先生。わしが、この子に『新しい夜明け』を、特等席で見せてやるきに」

龍馬さんはニカッと笑うと、桜子さんの肩を抱くようにして歩き出した。
夕陽に照らされた二人の影が、品川の喧騒の中に消えていく。
私はただ一人、波の音を聞きながら立ち尽くしていた。

傍らで、恭太郎殿が私の肩にそっと手を置いた。

「……先生。龍馬殿は、案外、私たちよりも彼女の本質を見抜いているのかもしれません」

恭太郎殿の言葉に、私はただ、重く、苦い溜息を吐くことしかできなかった。
守ろうとするあまり、私は彼女の心を閉じ込めてしまっていたのだろうか。
品川の潮風が、今の私の心には、あまりに冷たく感じられた。

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