第5章 自立
第28話:品川の再会
潮の香りが混じる品川の宿。
人混みをかき分け、ようやく見つけた背中に、私は喉が張り裂けんばかりの声を絞り出した。
「桜子さん!!」
その声に、龍馬さんの隣を歩いていた小さな肩がびくりと跳ねた。
桜子さんがゆっくりと振り返る。その瞳は赤く腫れ、今にもまた涙が零れ落ちそうだった。
「……」
「よかった……無事で……」
私は駆け寄ろうとした。だが、その歩みを遮るように、龍馬さんが一歩前に出た。その手には、いつになく真剣な、寄せ付けないような拒絶の気が満ちている。
「待とうせ。今はそこまでにしとき、先生」
「龍馬さん……どいてください。桜子さんを連れ戻しに来たんです。昨夜は私が言い過ぎました。謝りたいんです!」
「謝る? 謝ってどうするぜ。また橘家へ連れ帰っ
て、箱入りにして、己の物差しを押し付けるがかえ?」
龍馬さんの言葉は、鋭い礫のように私の胸に突き刺さった。
「……それは」
「今の桜子には、あんたの優しさも正論も、毒にしかならん。あんたの顔を見れば、この子はまた『自分はダメな子だ』と己を責める。……今はまだ、お互いに会わんほうがええ」
龍馬さんはそう言って、私の胸に掌を当て、静かに、しかし抗いようのない力で押し返した。