第4章 時代を駆ける者
「新選組ですね」
断定するような仁先生の言葉に、部屋の空気が凍りついた。
「…… 桜子さん。私は言いました。彼らに関わるなと。それは君の命を守るためだけじゃない。……君が彼らに情を移せば、必ず歴史の歪みに苦しむことになると分かっているからです」
仁先生がゆっくりと歩み寄り、私の目の前で止まった。
「君が作った料理……それを沖田総司に届けたのですか? 労咳の彼に、少しでも滋養をつけてほしいと願って?」
私は、唇を噛んだ。
反論できない。先生の言うことはすべて正しい。私は、独りよがりの優しさで、禁じられた境界線を越えてしまったのだ。
「……先生。私、ただ……」
「君がしていることは、延命ですらないかもしれない。……彼に『生きたい』という未練を与え、より残酷な最期を迎えさせることになるかもしれないんだ。……医学の知識を、そんな風に無自覚に振り回してはいけない!」
仁先生の怒声が響いた。
それは、私への怒りであると同時に、自分自身がこれまで味わってきた「歴史を変えることの恐怖」を私に味わわせたくないという、悲痛な叫びのように聞こえた。
「……明日の朝まで、部屋で頭を冷やしなさい。その間に、私は君との今後について考えます」
先生は背を向け、奥の部屋へと去っていった。
恭太郎さんは何も言えず、ただ申し訳なさそうに私を見つめてから、部屋へと戻っていった。
暗い廊下に一人残された私は、空になった巾着を握りしめ、溢れ出す涙を止めることができなかった。
おじいちゃんが、あんなに怖い顔をするなんて。
でも、私の胸の中には、先生への申し訳なさと同じくらい、あのスープを飲んで「温かい」と笑った沖田さんの横顔が、消えずに残っていた。
その日の江戸の夜は、どこまでも深く、いつになく冷たかった。