第4章 時代を駆ける者
「かなりの時間はかかりますし、決して簡単なことではありません。でも、適切な薬と、十分な栄養、そして何より体を休める環境があれば……完治する病気です。私のいたところでは、もう誰も労咳で命を諦めたりしません」
恭太郎さんは目を見開いた。
「……完治、とな。……左様ですか。この国が百年、二百年と時を重ねた先には、死神の鎌さえも撥ね退ける知恵が待っているのですね」
恭太郎さんは自嘲気味に、ふっと笑った。
「しかし、ここは幕末です。沖田殿は新選組の一番隊組長。休息など、彼には最も縁遠い言葉でしょう」
「……だからこそ、せめてあのご飯だけでも食べてほしくて」
「…… 桜子殿は、優しいお人だ」
恭太郎さんは再び歩き出した。今度は三歩ではなく、私と並んで歩くような、少しだけ近い距離で。
「南方先生は、歴史という大きな流れを守ろうとなさっている。だが、桜子殿は……目の前の一人の人間を守ろうとしている。……私は、どちらが正しいのかは分かりませぬ。しかし、貴女のその温かさが、今のこの殺伐とした江戸には、何よりの救いに思えるのです」
「恭太郎さん……」
「今日一日のことは、胸の内に秘めておきましょう。……ですが、これだけは覚えておいてください。沖田殿を救うということは、彼を戦から遠ざけるということ。それは、彼から武士としての矜持を奪うことにもなりかねない。……それでも、貴女は彼に生きてほしいと願いますか?」
重い問いかけだった。
私は答えられず、ただ、巾着の中で冷たくなった空の器を、強く握りしめた。
背後から迫る夜の帳が、二人の足元を静かに飲み込んでいった。