第4章 時代を駆ける者
私は温かいスープを器に盛り、沖田さんに手渡した。
「これ、生姜が入ってるから体が温まります。卵も入ってるから、ちゃんと食べてくださいね」
沖田さんは、湯気が立つ器を両手で包み、一口、ゆっくりと口に運んだ。
「……ああ。温かい。…… 桜子さん、これは魔法の薬ですね。喉の痛みが、すうっと引いていく気がします」
「大げさですよ」
私が照れくさそうに笑うと、近くにいた隊士が冷やかしてきた。
「総司、顔が真っ赤だぞ。熱が上がったんじゃねえのか?」
「うるさいですよ。…… 桜子さん、本当に美味しい。ありがとうございます」
その時、一人の背の高い男がふらりと現れた。
整った顔立ちだが、その瞳は鋭く、周囲の空気を一瞬で引き締めるほどの威圧感がある。
「……総司。非番だからと、だらけすぎだ」
「おや、土方さん。そんなに怖い顔しないでくださいよ。これ、桜子さんが作ってくれたスープです。一口どうですか?」
土方歳三。
実物の「鬼の副長」を前に、私は息を呑んだ。
土方さんは私を一瞥し、それから沖田の持つ器を見つめた。
「……フン。そんな得体の知れぬものを食って、腹でも壊したらどうする」
そう吐き捨てるように言ったが、彼の目は、沖田の顔色が昨日よりも少しだけ良いことを、確かめるように見つめていた。
「……お嬢さん。こいつに、あまり変な知恵を吹き込まないでもらいたい」
土方さんはそう言い残して去って行ったが、その去り際、私には彼が少しだけ安堵したように見えた。
おじいちゃん、歴史の本には「冷酷」だなんて書いてあるけど、この人たちは、ただ必死に仲間を守ろうとしているだけなんだね。
私は、スープを飲み干して満足そうに笑う沖田さんの横顔を見ながら、この穏やかな空気が少しでも長く続くようにと、心の底から願わずにはいられなかった。