第1章 幕末への導標
仁の独白
神田の喧騒を抜け、橘家へと続く道。
私の少し後ろを、とぼとぼと不安気に歩く少女。
その姿――紺色のひだのあるスカートのセーラー服にリボン。そして、肩に下げた黒い鞄。
それは、江戸の風景の中ではあまりに異質で、鋭利な刃物のように私の視界を切り裂いていた。
(……間違いない。彼女は、未来から来た)
胸の高鳴りが抑えられない。
私がこの江戸に落ちてから、一体どれほどの月日が流れただろうか。
一人で戦い、一人で悩み、この時代の「修正力」という得体の知れない力に怯えながら、私は必死にメスを握ってきた。
だが、目の前の少女は、あろうことか私を「おじいちゃん」と呼んだ。
(おじいちゃん……? 私が?)
今の私はまだ三十代だ。独身であり、未来に残してきた恋人・未来(みき)との再会を夢見ることさえ、今の私には許されていない。
それなのに、彼女は私を見て、肉親を呼ぶような、切実で温かい声を上げた。
(もし、彼女の言葉が真実なら…)
彼女が本当に私の孫なのだとしたら。
それは、私がこの江戸で生き抜き、誰かと結ばれ、命を繋いでいくという証ではないのか。