第4章 時代を駆ける者
第二十二話:恭太郎の沈黙
橘恭太郎は、門の陰で立ち尽くしていた。
桜子と沖田総司が小指を絡め合い、静かに微笑み合う光景。それは、殺伐とした幕末の世にあって、そこだけが切り取られた絵画のように美しく、そして――危うかった。
(……南方先生は、関わるなと仰ったはず)
恭太郎は胸の内で葛藤していた。
新選組は、いつどこで恨みを買ってもおかしくない組織だ。そこに、素性の知れぬ「南方先生の助手を務める娘」が深く関わることは、橘家にとっても、そして何より桜子自身にとっても、取り返しのつかない事態を招きかねない。
本来ならば、即座に仁先生へ報告すべき案件だ。
だが、あの時の雪乃の顔が、恭太郎の足を止めさせた。
「…… 桜子殿」
沖田が去った後、箒を抱えて家に入ろうとした桜子に、恭太郎は努めて穏やかに声をかけた。
「あ、恭太郎さん……お出かけですか?」
桜子が少し肩を跳ねさせたのを、恭太郎は見逃さなかった。彼女は、嘘を吐くのがひどく下手な娘だ。
「ええ。……ところで、今、門前でお話しされていたお方は、どなたですか? 浪士のような身なりに見えましたが、お知り合いですか」
恭太郎はわざと、相手が沖田総司だと気づいていないふりをして、優しく問いかけた。桜子の真意を、その口から確かめたかったのだ。
桜子は一瞬、戸惑うように視線を泳がせた。だが、すぐに覚悟を決めたように恭太郎を真っ直ぐに見つめた。