第4章 時代を駆ける者
第二十一話:秘密の約束
「……歴史を変えてはいけない」
仁先生の言葉が、耳の奥で何度もリフレインしていた。
先生が言うことは正しい。私が持ってきた数少ない抗生剤を沖田さんに使ったところで、完治するかはわからないし、もし彼が生き残ることで、別の誰かが死ぬ運命に変わってしまうかもしれない。
(……でも、放っておくなんて、私にはできない)
翌朝、私は複雑な思いを抱えたまま、橘家の門前を竹箒で掃いていた。
朝の冷たい空気が、少しだけ高ぶった頭を冷やしてくれる。
カサッ、カサッという音に混じって、軽やかな足音が近づいてきた。
「おはようございます、桜子さん。精が出ますね」
顔を上げると、そこには昨日の浅葱色の羽織を脱ぎ、着流し姿で微笑む沖田さんが立っていた。
「……沖田さん。どうしてここに?」
「いえ、非番だったので。君の顔を見れば、なんだか今日の稽古も頑張れる気がして」
沖田さんはそう言って笑ったが、その後に続くはずの言葉を、小さな咳が遮った。