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時空の絆

第4章 時代を駆ける者


仁先生は、苦しげに顔を歪めた。

「君のいた未来で、彼らがどう描かれていたかは知っています。英雄かもしれない、悲劇の志士かもしれない。……でも、ここは物語の中じゃない。現実なんだ。彼らの周りには常に死の影がつきまとい、敵も多い。君が南方家の人間だと知られれば、君自身が標的になる可能性だってある」

「でも……! 沖田さん、咳をしてたんだよ。すごく、苦しそうに」

私は、ポーチの中の薬を思い出しながら訴えた。

「おじいちゃん……先生なら、治せるでしょ? 未来の薬を使えば、彼を……」

「……治せません」

仁先生の言葉は、冷たく、重かった。

「労咳(ろうがい)……結核は、現代の薬があったとしても、この時代の劣悪な衛生環境と、彼らの過酷な生活習慣の中では完治は難しい。それに、歴史を……歴史を、これ以上変えてはいけないんだ。彼が生き残ることで、どれほどの血が余計に流れるか、君に想像できますか?」

「そんなの……ひどいよ」

「…… 桜子さん。私は、君を守るためにここにいる。君を未来へ……元の世界へ返すのが、私の、そして未来の私の願いのはずだ。君を、新選組の悲劇と一緒に心中させるわけにはいかないんだ」

仁先生はそう言い残すと、背を向けて部屋を出て行った。

残された私は、畳の上に座り込み、拳を握りしめた。
仁先生の言うことは正しい。理屈では分かっている。
でも、あの時、私の手を握った沖田さんの冷たい手の感触が、どうしても忘れられなかった。

(……歴史なんて、知らない。おじいちゃんだって、一人で戦ってきたじゃない)

私は、暗い部屋の隅で、自分の鞄をそっと手繰り寄せた。
先生に内緒で、私にしかできないことがあるのではないか。
「助手」としての決意とは別に、一人の「未来人」としての、小さな、けれど危険な反逆の火が、私の心に灯り始めていた。

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