第4章 時代を駆ける者
「……沖田さん、今の咳、いつからですか?」
私の声から、さっきまでの明るさが消えた。
沖田さんは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの飄々とした顔に戻った。
「おや、桜子さんは南方先生の助手でしたね。藪医者の真似事は感心しませんよ? ただの風邪です、昨夜少し冷えただけですから」
「……本当に、風邪なんですか?」
私は思わず、巾着の中に入っている「ロキソニン」の箱を握りしめた。
でも、そんなものは気休めにしかならない。結核を治すには、もっと特別な、現代の抗生剤が必要なんだ。
「…… 桜子さん」
沖田さんが私の顔を覗き込むようにして見る。
その目はさっきまでおしるこを食べていた温かさが残っていた。
「心配しないで。僕は、あの大暴れな仲間たちを見捨てて死ぬほど、薄情じゃないつもりですから」
沖田さんの笑顔は、夕暮れ時の江戸の空によく似ていた。
美しくて、優しくて、そして――すぐに消えてしまいそうなほど、儚かった。
私は、おじいちゃんが託してくれた「救急セット」の意味を、もう一度自分に問いかけていた。
歴史を変えてはいけない。
でも、目の前で笑っているこの「幼馴染のような」人を、そのまま死なせていいはずがない。
江戸の町に、一番星が静かに瞬き始めていた。