第4章 時代を駆ける者
「江戸の娘さんは、みんなもっと慎み深いというか、口元を隠してクスクス笑うものなんですけど。君の笑い方は、なんだか……見てるこっちまで、明日も生きてていいんだなって思わせてくれる」
「……え。すみません!はしたなかったですね…」
現代と江戸時代との違いにまだ慣れていなかったと反省し、口元を抑えた。
「いえ、そんな事は全く。みなさん桜子さんみたいに笑えばいいのに。と思っていますよ」
沖田さんのその言葉が妙に恥ずかしく、照れ隠しに私は最後の一口のおしるこを口に運んだ。
この瞬間だけは、ここが幕末だということも、自分がタイムスリップしてきたことも忘れて、ただの「桜子」として楽しんでいた。
その時だった。
「……ケホッ」
沖田さんが、短く、けれど重い咳を漏らした。
彼はすぐに懐紙(かいし)を口に当て、何事もなかったかのように笑顔を作ったが、私の目は誤魔化せなかった。
(……今の、咳……)
おじいちゃんが言っていた。
『沖田総司は、肺結核で若くして亡くなった。あの時、もっと早く、もっと強力な薬があれば……』
私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
今の彼の手元にある懐紙に、もし血が混じっていたら。
現代の私なら「ただの風邪だよ」と笑い飛ばせたかもしれない。でも、この時代において、その咳は死神の足音に他ならない。