第4章 時代を駆ける者
第十八話:幼馴染の様
「えっ、一人で……ですか?」
仁先生は、薬研を回す手を止めて、目を丸くした。
「はい。いつも咲さんや恭太郎さんと一緒でしたし、少しだけ……江戸の空気に慣れたいんです。おじい……先生、私、向こうの世界ではまだ学生だったんですよ? 放課後に寄り道したり、友達と遊んだり……そういうのが、たまに恋しくなっちゃって」
私は少しだけ甘えるように言った。実際、仁友堂に閉じこもって医学書と格闘する毎日は、現代の女子高生だった私には少し息が詰まることもあった。
仁先生は困ったように眉を下げた。
「江戸は今、政情が不安定です。浪士も多いし、君のような娘が一人で歩くのは……」
そう言いかけて、先生はふと私の顔をじっと見つめた。私の瞳に宿る、少しばかりの窮屈さと、それでもこの時代を愛そうとする切実な光を見たのだろう。
「……分かりました。ただし、日が沈む前には必ず帰ること。何かあったらすぐに大きな声を出して助けを求めること。いいですね?」
「はい! 約束するね!」
私は咲さんに借りた可愛らしいピンク色の巾着を手に、スキップしたい気持ちを抑えて仁友堂を飛び出した。