第3章 修行
第十七話:医学館と西洋医学所
仁友堂の廊下を歩きながら、私はふと、おじいちゃんが病室で語っていた「かつての苦労話」を思い出していた。
(……確か、おじいちゃんが江戸に来て最初の方に、すごく怖い人たちに目をつけられたって言ってた。医学館と西洋医学所……。漢方と蘭方で、真っ二つに分かれて争ってたんだっけ)
おじいちゃんの話では、その対立を乗り越えるきっかけになったのは、一人の医師の命を救ったことだったはず。
「仁先生。……今、医学館と西洋医学所の関係はどうなっているんですか?」
私の問いに、薬を調合していた仁先生の手が止まった。先生は少し遠くを見るような目をして、穏やかに微笑んだ。
「……よく知っていますね。以前は、それはもう激しい対立がありました。私がここへ来たばかりの頃は、蘭方医というだけで疎まれ、命を狙われることさえあったんですよ」
「やっぱり……。福田先生、という方はご存知ですか?」
「福田殿……! ええ、よく知っています。医学館の多紀元琰先生の右腕とも言える方です。実は、彼が重い腹膜炎を患った際、私が手術を執り行ったんです。それがきっかけで、多紀先生も私の医術を……完全ではありませんが、認めてくださった。今は、医学館と西洋医学所、互いの知恵を出し合えるよう、少しずつ歩み寄っている段階です」
先生の言葉を聞いて、私は胸をなでおろした。
(よかった……。おじいちゃんが変えた歴史は、ちゃんと良い方向に向かってるんだ)