第3章 修行
第十三話:闇夜の執刀(南方仁 視点)
龍馬さんに腕を引かれ、夜の江戸をひた走る。
行き先も告げられぬまま連れ込まれたのは、築地にある某藩の中屋敷だった。
重苦しい空気、抜き身の刀を提げた武士たちが廊下を埋め尽くしている。
「……龍馬さん、これは一体」
「……先生、すまんき。わしの独断じゃ。じゃが、この男が死ねば、この国は進むべき道を失う。頼む、助けてくれ」
龍馬さんの声は震えていた。
案内された奥の間。そこには、血の海の中に横たわる、一人の巨漢がいた。
(……西郷、隆盛……!?)
歴史の教科書に載る、あの薩摩の英雄。
上野の銅像そのままの姿。
だが、目の前の男は英雄などという煌びやかなものではなかった。
腹部を深く斬り裂かれ、溢れ出す内臓を必死に手で押さえ込んでいる、ただの死にかけの人間だった。
「……無茶だ。こんな、輸血も設備もない場所で……」
私の足がすくむ。この男を救えば、歴史はどう変わる?
私が知る歴史では、西郷隆盛はここで死ぬはずがない。だが、もし私の存在自体が歴史を歪め、彼を死に追いやっているのだとしたら?
「先生! 何をぼーっとしちゅう! 先生なら、救えるがじゃろう!?」
龍馬さんの怒声で、私は我に返った。