第2章 八百八町
「……おい、 桜子と言ったか。アンタ、どこでそんな話を仕入れた。そんな情報は、幕府の老中どころか、オランダの商館長ですら口にできねえ内容だ」
「それは……」
私が「しまった」と思うにはもう遅く、言葉に詰まり、おじいちゃんの顔を見ました。おじいちゃんは「やれやれ」という顔をしながらも、優しくフォローしてくれました。
「勝先生。この子は、私の教育で少しばかり……『外』の世界を広く見すぎているようでして」
「……いや、これはただの教育じゃねえ。……南方先生。アンタらはいったい、何者だ? 未来を見通す千里眼でも持っているのか、それとも……」
勝先生の問いに、部屋の空気が凍りつきました。
しかし、勝先生は突然「カハハ!」と豪快に笑い出しました。
「気に入った! 理屈じゃねえ、その眼だ。……いいか、 桜子。これからはアンタのような奴が、この国には必要なんだ。龍馬、こいつらをしっかり守れ。こいつらは、俺が見ているよりもずっと遠い『未来』を見ているぜ」
勝先生のその一言で、私たちは正式に「幕末の表舞台」へと招かれることになりました。
龍馬さんは嬉しそうに私の肩を叩き、おじいちゃんは小さくため息をつきました。
江戸の夜風が、少しだけ新時代の香りを運んできたような、そんな夜でした。