第2章 八百八町
第十話:勝海舟の招待
「南方先生、それに 桜子さん。勝先生がお二人を連れて屋敷に来いとの事です。それに坂本殿も…」
恭太郎さんはなぜ私達が呼ばれたのかと不思議に思っているようだった。
「実はさっき町で勝先生に会うたきに。そん時 桜子を連れて一度屋敷に来いと言われとったがじゃ。よっしゃ!行くぜよ」
坂本龍馬さんの威勢の良い声に導かれ、私とおじいちゃんが足を踏み入れたのは、赤坂にある勝先生の屋敷でした。
そこには、幕臣とは思えないほどラフな格好で、鋭い眼光を放つ小柄な男性が座っていました。
「……さっきの娘さん、よく来たな!まあ、座りな」
勝先生は机の上に広げられた、一枚の地図を私に見せた。
「お前さん、これが読めたりするかい?」
それは、英語で記された世界各国の航路と、当時の列強国の勢力図でした。
「……この地図。北太平洋の航路が少し古いです。今の季節なら、黒潮の蛇行を考慮して、もっと南寄りにラインを引くべきじゃないでしょうか」
私の言葉に、勝先生の動きが止まりました。
「……ほう、英語が読めるのか。それに『海図』を解するか」
「はい。それと……今のイギリスやフランスの動きを考えると、彼らが狙っているのは清(中国)だけではありません。ロシアの南下政策を防ぐために、この日本を不凍港の拠点として……」
私は、学校の歴史の授業や地理で習った知識、そして現代の感覚で、当時の世界情勢を語り始めました。アヘン戦争後の東アジア、産業革命による蒸気船の普及、そして後に訪れるクリミア戦争の影響……。
勝先生は、最初は面白半分に聞いていましたが、次第にその顔から余裕が消え、身を乗り出してきました。