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時空の絆

第2章 八百八町


龍馬さんは私の言葉を反芻するように、一つ、大きく頷いた。

「……生きてる、か。まっこと、おまんの言う通りぜよ。わしらには明日があるか分からんきに、今を全力で駆け抜けるしかないがじゃ」

その時、人混みの向こうから、一人の男が悠然と歩いてくるのが見えた。
黒い着物に身を包み、鋭い眼光を放ちながらも、どこか飄々とした空気を纏った男。

「おや……龍馬じゃないか。朝っぱらから、そんなところで油を売ってるとは、相変わらず暇な男だねぇ」

その声を聞いた瞬間、龍馬さんの顔がパッと輝いた。

「おお! 勝先生! 奇遇ですのう!」

勝麟太郎。
後に勝海舟と呼ばれる、幕府の軍艦奉行。
彼が私たちの前で足を止めた。そして、隣にいる私を、頭の先から足の先まで品定めするように見つめた。

「……なんだい、その娘は。偉い別嬪じゃねぇか。それにただの小娘じゃねぇな。龍馬、お前、どこぞの茶屋から攫ってきたんじゃないだろうね?」

「失礼な! この 桜子は、南方先生と同じ、とびきりの『知恵』を持ったおなごぜよ!」

勝先生は鼻で笑うと、私の鼻先に顔を近づけてきた。

「ほう……。南方先生の…ねぇ。お嬢ちゃん、その澄んだ目、何を見てやがる? 幕府の腐った中身か、それとも、この国が沈みゆく海の色か?」

私はその圧倒的なオーラに気圧されそうになりながらも、逃げずに勝先生を見つめ返した。
この人たちの前では、嘘をつく必要も、自分を卑下する必要もないのだと、直感的に感じていた。

「……私は、今、この町の熱さを見ています」

勝先生は一瞬目を見開くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「熱さ、だと? ……面白い。龍馬、この娘を俺のところへ一度連れてこい。新しい時代の匂いがしやがる」

勝先生はそれだけ言うと、風のように去って行った。

「……はぁ、心臓止まるかと思った」

「はっはあ! 雪乃、おまんは大物ぜよ。あの勝先生に意見を述べるとはのう!」

龍馬さんの笑い声が、江戸の空に高く響いた。
私は、自分が思っている以上に、この時代の激流に深く足を踏み入れてしまったことを悟り始めていた。
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