第1章 幕末への導標
「ただのおなごが、そんな得体の知れぬ『カバン』を持っちょるはずがない。見せてみぃ、その中身を!」
龍馬さんが私の通学鞄(今は咲さんに借りた巾着袋に中身を移している)に手を伸ばそうとした時、仁先生がピシャリと言い放った。
「龍馬さん! 淑女の持ち物を勝手に見るのは、未来の……いや、私の故郷では万死に値する無礼ですよ!」
「ばんし……? おお、こわいこわい! 先生がそんなに怒るなら、わしも引き下がるぜよ」
龍馬さんはおどけたように両手を挙げたが、その目はまだ楽しそうに私を観察していた。
「 桜子、と言ったか。まっこと、面白いおなごぜよ。先生、こりゃあ江戸がますます騒がしくなりそうじゃのう!」
龍馬さんの笑い声が橘家に響き渡る。
私は、おじいちゃんが龍馬さんのことを「太陽みたいな人」と言った理由が少しだけ分かった気がした。眩しすぎて、直視できないほどに。
けれど同時に、この「太陽」に照らされることで、私の正体が暴かれてしまうのではないかという、新たな不安が胸をよぎるのだった。