第1章 幕末への導標
「『おじいちゃん』!」
龍馬さんがニヤリと笑い、私の顔を覗き込んできた。
「わしは耳がいいきに、外まで聞こえちょったぜよ。おまん、さっき先生のことを『おじいちゃん』と呼んだろう?」
「えっ! い、いえ、それはその……」
「はっはあ! 先生、隠し子ならぬ『隠し孫』がおったがかえ! こりゃあ驚いた。先生も隅に置けんのう!まっこと可愛らしい孫を連れてきていたとは!」
龍馬さんは私の肩をガシガシと叩きながら、豪快に笑い転げた。
「ち……違います!それに龍馬さん!叩きすぎです。彼女が困っているでしょう」
仁先生が困り果てて止めに入るが、龍馬さんの好奇心は止まらない。
「しかし、おまん……その目は、先生と同じじゃ」
急に龍馬さんの声からふざけた響きが消えた。彼は私の瞳をじっと覗き込み、鼻をクンクンと鳴らす。
「先生と同じ、この国にはない『風』の匂いがする。異国……いや、もっと遠い、見たこともない場所から吹いてくる風じゃ。おまん、先生と同じ『あっち側』から来たがかえ?」
その直感の鋭さに、私は背筋が凍る思いがした。この人には、嘘が通用しない。
「……私は、ただの……」
(何と言えばいいんだろう…学生なんて言葉はないし…)