第12章 未来への道標
直球すぎる言葉だったかもしれない。だが、先生の体が時折、現実の景色に溶けるように透けるのを見て、私は「今、伝えねばならない」と直感したのだ。
「桜子殿は、強うございます。沖田殿を失い、それでも前を向こうとする。その姿に、私は救われました。……もし許されるならば、私はこの先の新しい時代、彼女の傍らで、その歩みを支えたいと考えております」
先生は、驚いたように目を見開き、やがて優しく目を細められた。
「……恭太郎さん。桜子さんは、私にとって最高の孫であり、誇りです。……恭太郎さん、あなたならきっと桜子さんを守り通してくれると信じています。ですが、私たちには、もうあまり時間が残されていないのかもしれません」
「時間……とは、どういう意味ですか?」
私が問い返そうとしたその時、先生の体が、一瞬だけ激しく火花を散らすように乱れた。
「先生!」
「……案じてはいけません。……恭太郎さん、どうか、桜子さんをお願いします。彼女が、この時代にきて良かったと思えるような、そんな日本を、貴方が作ってあげてください」
先生の言葉は、まるで今生の別れのような重みを持っていた。
ふと振り返ると、縁側で私たちを見守っていた桜子殿が、不安そうにこちらを見つめていた。
「……恭太郎さん、おじいちゃん……?」
春が過ぎ、初夏の風が吹き抜ける。
庭の桜の木は、すでに青々とした葉を茂らせていたが、桜子殿の髪にある簪だけは、いつまでも満開のまま、私たちの運命を繋ぎ止めているようだった。
私は、彼女の元へ一歩を踏み出した。
この手が、いつか消えてしまうかもしれない幻を掴もうとしているのか、それとも確かな未来を掴もうとしているのか。
今はまだ、分からなかった。