第11章 人間万事塞翁が馬
第67話:絶対に死なせない
江戸城が無血開城され、百万の民は戦火から救われました。しかし、その決定に納得できない旧幕臣たちは「彰義隊」を結成し、上野の山に立てこもりました。
「……南方先生、桜子殿。今までありがとうございました。……母上と咲を、よろしくお願いします」
「恭太郎さん!どうして……一緒に生きてくれるって!」
「桜子殿。拙者は長きに渡り徳川に仕えてきた旗本。時代は変われど仁義は果たさねばなりません」
「恭太郎!行かないでおくれ!後生です…」
栄さんの叫びも虚しく、恭太郎さんはそう言い残し、上野へ向かってしまいました。
そして慶応四年五月。
上野戦争が勃発しました。新政府軍の圧倒的な火力の前に、上野の山は火の海と化しました。
「おじいちゃん、行こう! 恭太郎さんが、恭太郎さんが死んじゃう!」
「……ああ、行こう。……うっ、ぐあ!!」
仁を激しい頭痛が襲います。彼の体は時折、陽炎のように透け、背景の景色が透けて見えるようになっていた。時空の歪みが、もう無視できないレベルに達している。
それでも、仁先生は医療鞄を掴み、桜子の手を引いて走り出しました。
黒門口の激戦地。倒れる兵士たちの中に、血まみれで倒れている恭太郎さんの姿を見つけました。
「恭太郎さん! 恭太郎さん!!」
桜子と咲が駆け寄ると、恭太郎さんは腹を深く撃ち抜かれ、虫の息でした。
「……桜子、殿……。咲……。逃げ、な…さい……。ここは、もう……」
「黙っててください! 恭太郎さん、私に言ってくれたじゃないですか!その苦しみを背負って、生きろと。……私も、あなたの苦しくみを共に背負います。だから生きて!」
桜子はかつて沖田さんを救えなかった時の絶望を、怒りへと変えて叫びました。仁先生もまた、透ける腕に力を込め、野戦病院と化した寺の境内で緊急手術を開始しました。