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時空の絆

第11章 人間万事塞翁が馬



第65話:遺された簪、進むべき道

近江屋の二階。そこは、一人の剣士の命を代償に、歴史が無理やり書き換えられた場所になった。

龍馬は、冷たくなっていく沖田総司の傍らで、血に濡れた彼の愛刀『加州清光』を震える手で拾い上げた。

「……沖田。おまんの誠、この龍馬が確かに受け取ったぜよ。おまんが命懸けで守ったこの日本、わしが必ず、誰もが笑うて暮らせる面白い国にしてみせる。……約束ぜよ」

龍馬の涙混じりの誓いが響いた。

「おまんの愛刀は土方に渡しておくがや」

龍馬暗殺…それを阻止する事はできた。しかし、失ったものがあまりにも大きかった。

私たちは逃れるように江戸へ戻りました。

しかし、江戸の橘家に辿り着いた桜子は、まるで魂をあの雨の夜に置いてきてしまったかのようだった。

「桜子さん、一口でもいい。お粥を食べてなさい」

仁がどれほど優しく、時には必死に声をかけても、桜子は虚ろな目で窓の外を見つめたまま。
髪には、あの日以来一度も外していない桜の簪が、色を失ったように差し込まれていた。

三日が過ぎ、一週間が経っても、桜子は食事をほとんど受け付けず、日に日に痩せ細っていった。その姿は、まるで自ら命を削って、沖田さんの後を追おうとしているかのようだった。

「……桜子! いい加減にしなさい!!」

ついに、仁の怒声が茶の間に響いた。それは、祖父としての深い悲しみと、医師としての激しい憤りでだった。

「君を救うために、あの人は剣を振るったんだ! 彼が最期に見たかったのは、君がこうして朽ち果てていく姿なのか!? 違うはずだ! 誰よりも幸せになってほしかったはずだ! ……そんなことも分からないのか!」

仁は、こみ上げる涙を堪えながら、震える拳を握りしめた。愛する孫を失いたくない。けれど、彼女の心に届く言葉が見つからない。その無力感が、彼を苛んでいた。

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