第11章 人間万事塞翁が馬
第62話:光を継ぐ者
瞼を開けると、そこは屯所の一室でした。
視界に飛び込んできたのは、ひどく疲れ果て、けれど安堵の表情を浮かべる仁先生の顔でした。
「……桜子さん。分かりますか、私の声が」
「……おじいちゃん……。私、夢を……」
私は、現代の東京で見たあの光景を、たどたどしく仁先生に伝えました。おじいちゃんが龍馬さんを救おうとしていたこと、そして、その先にいる「誰か」のこと。
仁先生は私の手を握ったまま、重い口を開きました。
「……桜子さん。大政奉還が成った今、歴史は最大の分岐点を迎えようとしています。……坂本龍馬の暗殺、近江屋事件です。私は、彼を死なせたくない。……いいえ、死なせてはならないんです。彼が生きることで救われる命が、その先に無数にあるからだ」
仁先生の目は、かつてないほど鋭い決意に満ちていました。
「桜子さん。共に戦ってくれますか。……歴史という名の死神から、彼を奪い返すために」
「……はい。でも、おじいちゃん。私、夢の中で気づいたの」
私は、夢の淵で聞こえたあの咳払い、そしておじいちゃんの机にあった文書の断片を思い出しました。
「おじいちゃんが救いたかった『誰か』って……もしかして、龍馬さんを助けようとして、一緒に歴史に飲み込まれそうになった人のことなんじゃないかな」