第11章 人間万事塞翁が馬
おじいちゃんは、タイムスリップという現象の存在を、あるいは「修正された歴史」の歪みを、どこかで感じ取っていたのかもしれない。
「……おじいちゃんは……龍馬さんを救いたかったんだ……。そして、龍馬さんと一緒に……『誰か』を……」
夢の中の霧が晴れていきます。
おじいちゃんが救いたかったのは、幕末の英雄だけじゃない。
彼と共に生きるはずだった人々、そして……その先に繋がる、病で苦しむはずの「誰か」の未来。
『桜子、戻っておいで。……お前がいないと、歴史は完成しないんだ』
おじいちゃんの声が、現代のビル群を突き抜けて響きました。
その声に重なるように、もう一つの、どこか懐かしく、そして寂しげな咳払いが聞こえました。
「……沖田さん」
私は目を開けようと、重い瞼に力を込めました。
自分がここに来たのは、偶然じゃない。
おじいちゃんの果たせなかった祈りを、そしておじいちゃんが愛したこの時代の命を、私たちが共に繋ぎ止めるために。
「……おじいちゃん……」
私の指先が、わずかに動きました。
傍らで私の手を握りしめていた仁先生が、息を呑むのが分かりました。
夢から醒める。それは、再び血と硝煙の匂い漂う幕末へ戻るということ。
けれど、今の私には、倒れる前よりもずっと強い「理由」が、胸の中に灯っていました。