第11章 人間万事塞翁が馬
第61話:夢の淵、現代の記憶
意識が、遠く、深く、沈んでいく。
京の街の喧騒も、仁先生の呼ぶ声も、やがて水底の音のように遠のき、私は眩しい光の中にいました。
「……ここ、は……」
そこは、排気ガスの匂いと人々の騒音に満ちた、二十一世紀の東京でした。
私は制服を着て、いつもの通学路を歩いています。スマートフォンの画面、賑やかなコンビニ、高層ビル。すべてが鮮明で、けれどあまりにも無機質に感じられました。
ふと、自宅のリビングの風景に切り替わります。
そこには、若き日の父と、そして書斎で一心不乱に古い文献を読み耽る、祖父――南方仁の姿がありました。
『……坂本龍馬。この男が、あの時死ななければ……』
おじいちゃんの呟きが、耳に残っています。
当時の私は「また歴史オタクの独り言だ」と聞き流していました。けれど、夢の中の私は、おじいちゃんの机の上に置かれた一通の、ひどく古ぼけた手紙に目を止めました。
それは、おじいちゃんが大切にしていた、南方家に伝わる「謎の文書」でした。
『龍馬を、救いたかった……。いや、龍馬さんだけじゃない。……私は、あの日……あそこで……』
おじいちゃんの声が震えていました。
その時、気づいたのです。
おじいちゃんがずっと江戸時代の研究に没頭していたのは、単なる学術的な興味じゃなかった。