第11章 人間万事塞翁が馬
歴史を変えることの代償を払わされているのは、自分ではなく、このうら若き少女なのではないか。その恐怖が、仁の心を強く締め付ける。
「……せん……せ……」
うなされる桜子の口から、微かな声が漏れた。
「……沖田……さん……生きて……。家茂、さま……ごめん……なさい……」
意識を失ってなお、彼女は誰かの命を案じ、誰かの死を詫びていた。
その姿を見て、部屋の入り口に立っていた土方歳三が、静かに声をかけた。
「……南方先生。自分を責めて、この娘が喜ぶと思うか」
「土方殿……」
「この娘は、自分の意志でここにいる。総司を救い、上様の最期を看取ったのは、他でもないこの娘の意志だ。……あんたの助手は、あんたが思っているよりずっと、この時代の人間として強く生きているぜ」
土方さんの言葉に、仁はハッと顔を上げた。
桜子の髪に、落ちていた桜の簪をそっと差し戻したのは、病床から這い出してきた沖田だった。
「……桜子さん。起きてください。……今度は僕が、君を救う番なんですから」
窓の外では、時代の終わりの鐘が鳴り響こうとしていた。
桜子の命の灯火。そして歴史の大きな転換点。
仁は、涙を拭い、再び医者としての、そして家族としての決意を瞳に宿していた。