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時空の絆

第11章 人間万事塞翁が馬



第60話:桜子倒れる

京の町は、大政奉還という前代未聞の政変を前に、爆発寸前の熱気と殺気に包まれていた。
家茂公の死を見届け、新選組に遺言を届け……。幾多の重責を果たし終えた桜子の体は、本人が気づかないうちに、もう一歩も動けないほどに削り取られていた。

「……桜子さん、顔色が悪い。少し、休んだ方がいい」

仁がそう声をかけた瞬間。

屯所の門を出ようとした桜子の膝が、ふっと崩れた。

「桜子さん!」

仁先生が抱きとめたその体は、驚くほど熱く、そして軽くなってた。
髪からこぼれ落ちた桜の簪が、冷たい石畳の上に虚しく音を立てて転がった。

屯所の一室。

運び込まれた桜子の枕元で、仁先生は震える手で診察を続けていた。
極度の疲労、栄養不足、そして何より、自分より他人の命を優先し続けたことによる精神的な摩耗。

「……まただ。私は、また……」

仁は、桜子の細くなった手を見つめながら、暗い後悔の淵に沈んでいた。

現代で恋人の未来を救えなかった。そしてこの江戸時代でも、孫である桜子に、あまりにも過酷な運命を背負わせてしまった。

「……私のせいだ。私が彼女を、この動乱の時代に巻き込まなければ……こんな苦しい思いをさせずに済んだのに」

医師として、一人の男として、唯一無二の血を分けた者として、仁は自分を責め続けた。

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