• テキストサイズ

時空の絆

第10章 有為転変


「……上様は、俺たちに『生きろ』と仰っているのか」

土方さんが低く呟きました。武士として死ぬことを美徳としてきた彼らにとって、それは何よりも重く、そして温かい、慈悲の言葉でした。

「……桜子さん。来てくれたんですね」

廊下の向こうから、聞き慣れた、けれど以前よりずっと掠れた声が聞こえました。
振り返ると、そこには柱に寄りかかり、肩で息をする沖田総司さんの姿がありました。その顔は、江戸にいた時よりもさらに蒼白で、労咳の影が色濃く差しています。

「沖田さん……!」

私が駆け寄ると、沖田さんの視線は私の髪に向けられました。そこには、彼が江戸で贈ってくれた、あの桜の簪が差してありました。

「……ふふ。まだ、持っていてくれたんですね」

沖田さんは、消え入りそうなほど微かな、けれど確かな慈愛を込めて微笑みました。

「……当たり前ですよ。これ、私の宝物なんですから」

「……ありがとう。それを見たら、なんだか少しだけ、呼吸が楽になった気がします」

沖田さんは震える手で、私の髪の簪に触れようとして、ためらうように手を下ろしました。

将軍の死。そして迫りくる新時代の足音。
新選組という誇りを背負いながら、病という逃れられない運命と戦う沖田さん。
家茂公の「遺言」は、彼らの頑なな心に、一つの小さな光を灯したのかもしれません。

けれど、歴史の残酷な激流は、そんな彼らの想いさえも飲み込もうと、すぐ背後まで迫っていました。

「……先生。沖田さんの命、まだ、繋げられますか」

仁先生の硬く結ばれた唇が、これから始まる最後の戦いの厳しさを物語っていました。
京の夜。屯所の庭に咲く枯れかけた花が、月明かりの中で静かに揺れていました。

/ 144ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp