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時空の絆

第10章 有為転変



第56話:大坂城強行突入

慶応二年七月。大坂城は、夏の湿り気と敗戦の濃い影に包まれていました。

家茂公の病床へ向かう回廊は、殺気立った奥医師や、戦況の悪化に苛立つ幕臣たちによって固く閉ざされていました。

「通してください! 南方先生でなければ、上様は救えません!」

私の叫びも、彼らの頑迷なプライドには届きません。「不浄な女子を近づけるな」「西洋の毒薬など言語道断」と、怒号が飛び交います。仁先生が冷静に説得を試みようとしたその時、背後から冷徹な剣気が廊下を貫きました。

「……五月蝿いですね。上様が呼んでおられると言っているでしょう」

振り返ると、そこには浅葱色の羽織を肩にかけた沖田総司さんが立っていました。その瞳は、江戸で見せた優しさは微塵もなく、ただ冷たく澄み渡った「一番隊組長」のそれでした。

「沖田……さん……」

「桜子さん、先生。ここは僕たちが通します。……一番隊、開けさせろ!」

沖田さんの号令と共に、隊士たちが抜刀し、回廊の両脇を固めました。奥医師たちが腰を抜かして退く中、沖田さんは一度だけ私を見て、小さく頷きました。その顔は、江戸にいた時よりもさらに白く、けれどその意志はどんな鋼よりも強固に見えました。

「……急いで。上様は、貴方たちを待っておられる」

私たちは沖田さんに守られるようにして、家茂公の寝所へと駆け込みました。

そこには、半年前の快復が嘘のように痩せ細り、激しい脚気の再発によって意識を失いかけている家茂公の姿がありました。

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