第10章 有為転変
「徳川が政権を帝に返し、全ての藩が一つになって新しい国を作る。……そうすれば、幕府と長州が戦う理由ものうなる。家茂公も、重荷を下ろして休むことができるはずじゃ」
「……でも、そんなこと、幕府の人たちが許すの?」
「それを説得するのが、わしの、そしておんしゃあらの役目ぜよ。……桜子、おんしゃあが救うた家茂公の命は、ただの命じゃない。徳川という大きな家を、傷つけずに終わらせるための『鍵』ながじゃ」
龍馬さんの瞳には、戦火の向こうにある平和な日本の姿が映っているようでした。
救った命が歴史を動かし、その歴史がまた新しい命を救う。
そんな壮大な連鎖の中に、私たちは立っている。
「……見えてきたぜよ。大坂城じゃ」
闇の向こうに、巨大な城のシルエットが浮かび上がりました。
あそこには、苦しんでいる家茂公がいる。そして、彼を護るために命を削っている沖田さんもいる。
「……行きましょう、先生」
「ええ。私たちの医療で、この国の夜明けを連れてきましょう」
船は大坂の港へと滑り込みました。
そこは、誠を貫く者と、義を叫ぶ者が入り乱れる、幕末最大の修羅場。
私は髪に刺さった桜の簪をもう一度確かめ、戦火の匂いが漂う大坂の地へと一歩を踏み出しました。