第10章 有為転変
手紙の最後には、殴り書きのような自筆の句が添えられていました。
『おもしろき こともなき世を おもしろく』
「……高杉さん」
涙が、手紙の文字を滲ませました。
彼もまた、沖田さんと同じ。
救われた命をただ長らえるのではなく、自分の信じる「誠」や「義」のために、命を燃やし尽くそうとしている。
「桜子さん。……高杉殿は、自らが歴史の火種になることを選んだのです。……私たちの医療が、彼にその『火を灯す時間』を与えたのなら、それは……」
仁先生の言葉が、冬の空気に溶けていきました。
西では高杉晋作が、江戸では家茂公と沖田総司が。
桜子と仁が出会った人々が、それぞれの信念を胸に、決戦の地へと集結し始めていました。
私は髪に刺さった桜の簪をそっと撫で、西の空を見つめました。
「……生きて。……みんな、生きて、またあの粥を食べてください」
願いは、届くのでしょうか。
歴史という巨大な怪物が、私たちの想いを飲み込もうと、大きく口を開けて待っていました。