第9章 東から西へ
家茂公は、懐から一通の小さな、封じられた書状を取り出しました。
「……これは、ある願いを託した書状だ。もし……もし余に万一のことがあったなら、これを和宮に。そして、もう一通。……新選組の近藤勇へ届けてほしい」
「新選組へ、ですか?」
「うむ。彼らは愚直なまでに、徳川の『誠』を信じて戦うておる。……余が救われたように、彼らもまた、救われる道があってほしいのだ」
家茂公の瞳には、自分の死さえも予感したような、澄み切った覚悟が宿っていました。
第二次長州征伐。歴史では、家茂公が大坂城で没し、幕府の終焉が決定的となる戦いです。
私たちは、家茂公の命を救うことで、彼をより過酷な戦場へと送り出してしまったのでしょうか。
「桜子。……其方が作った粥は、まことに、美味かったぞ」
家茂公のその笑顔が、あまりに眩しくて、私は胸が締め付けられる思いでした。
その数日後、家茂公は華々しく江戸を発たれました。
私たちは、託された書状の重みを感じながら、再び千駄ヶ谷の地へと戻りました。
そこには、家茂公の上洛に合わせ、再び京への出陣を命じられた沖田さんの姿がありました。
歴史の針は、家茂、沖田、高杉……。彼らを一つの戦場、一つの結末へと引き寄せるように、猛烈な勢いで回転を始めていました。