第9章 東から西へ
第49話:将軍家の未来
江戸の冬は、肌を刺すような寒さ。
千駄ヶ谷の植木屋。少しずつ体力を取り戻しつつある沖田さんは、縁側で日向ぼっこをしながら、私が持ってきた温かい葛湯をゆっくりと啜っていました。
「…… 桜子さん。君が毎日こうして世話を焼いてくれるおかげで、僕の体はすっかり『甘えん坊』になってしまいましたよ」
「いいんです、甘えて。京に戻ったら、また過酷な日々が待っているんですから。今のうちにしっかり貯金……いえ、体力を蓄えておかないと」
私は笑って答えましたが、胸の奥では常に不安が渦巻いていました。
歴史の針は、着実に「将軍家茂の死」という残酷な結末へと向かっている。そしてそれは、新選組の、ひいては沖田さんの運命とも直結しているからです。
そんな折、橘家に一通の、重々しい菊の紋章が入った書状が届いた。
差出人は、大奥の実力者――天璋院。
「……お世継ぎ、ですか」
先生は、書状を読みながら、厳しい表情で呟きました。
若き将軍・徳川家茂と、公家から降嫁した和宮。二人の仲は睦まじいことで知られていますが、未だ世継ぎには恵まれていません。幕府の権威が揺らぐ今、それは徳川家にとって死活問題だった。