緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】
第4章 不実な夜に、君の名を
彼女を守りたかった。
彼女を汚したくなかった。
だからこそ「大切」に扱い、一線を越えずに耐えてきたはずだった。
だが、その自分の理性が彼女を追い詰め、見も知らぬ男たちの腕の中に追いやり、最後には自分のもとから去らせてしまった。
「……クソッ………ッ!!」
右拳で甲板を殴りつける。
硬い木材の感触が拳を伝うが、胸の奥に空いた巨大な穴の痛みには、到底及ばなかった。
朝日が昇りきる頃、赤髪の船長は、愛した女一人救えなかった己の無力さに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……おい、いつまでそうしてんだ。甲板が腐るぞ」
背後から投げかけられたのは低く、全てを見透かしたようなベックマンの声だった。
シャンクスは力なく頭を振った。
その広い背中が、今は驚くほど小さく見える。
「……ベックか」
「顔を上げろ。……はどうした。さっき一人でタラップを降りていくのが見えたが」
「……船を降りたよ。あいつ、もうこの船にはいられねェってさ」
シャンクスの声は掠れ、ひどく湿っていた。
昨夜の酒場での出来事に、ベックマンには事の顛末が容易に想像できた。
「……で、お前はこのまま行かせるつもりか?」
「……いいわけねェだろ!!」
シャンクスが吠えるように叫び、弾かれたよう振り返った。
その瞳には、行き場のない怒りと後悔が渦巻いている。
「だが、あいつは、まだ若いんだ……。未来だってある。海賊や山賊の件だってあるし、俺みたいな血生臭い男が、あいつの身体をこれ以上……っ。俺が手を出せば、あいつを本当に引き返せねェ場所に連れてっちまう……!」
「……それがお前の『正義』か。笑わせるな、シャンクス」
ベックマンは冷たく言い放ち、手近な樽を蹴り飛ばした。
凄まじい衝撃音が甲板に響き渡る。
「あいつが欲しがってたのは、お前の綺麗な理屈じゃねェ。お前自身だろ」
「ベック……」
「海賊や山賊に回された過去がなんだ。未来があるからなんだ。そんなもん、お前が全部飲み込んでやりゃ済む話だろ。……あいつはな、お前に拒絶されるくらいなら、泥沼に沈んだほうがマシだと思ってる」
ベックマンはシャンクスの胸ぐらを右手で掴み、無理やり至近距離で睨みつけた。