緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】
第4章 不実な夜に、君の名を
「……私、汚れたかったんです。あなたの『大切』が、あんなに苦しいものなら……いっそ、壊して欲しかった」
朝日が昇る甲板の上、二人の間に、取り返しのつかない亀裂が走る。
怒りに震えながら彼女を見つめるシャンクスと、もはや失うものなど何もないという顔で彼を見つめ返す。
静寂の中、シャンクスの呼吸だけが荒く響いていた。
「……好きなんです。シャンクスさん」
朝日の眩しさに目を細め、は震える声で告げた。
その瞳からは、もう涙すら溢れなかった。
ただ、枯れ果てた大地のような絶望だけがそこにある。
シャンクスの心臓が、大きく跳ねた。
何となく気づいていた。
彼女の献身が、ただの恩義を超えた熱を帯びていることに。
だが、自分は常に死と隣り合わせの、海の荒くれどもを束ねる船長だ。
「……悪い。お前の気持ちには、応えられねェ」
絞り出すような声だった。
彼女を大切に思うからこそ、この泥沼のような海の世界に、これ以上深く引き摺り込みたくなかった。
「……そう、ですよね」
は悲しげに口角を上げた。
その微笑みは、シャンクスの胸をどんな刃よりも深く抉った。
「だったら……私、この船を降ります」
「……っ、何を言ってやがる! 行く宛てなんてねェだろ!」
「いいんです。もう、あなたの隣にいるのが……辛いから」
背を向けようとする彼女の腕を、シャンクスは再び掴んだ。
今度は、逃がさないように。
「ダメだ。こんな治安の悪い島に一人で残すわけにいかねェ。……お前の身に何かあったら、俺は――」
「何があっても、もう関係ないじゃないですか」
は冷たく言い放ち、シャンクスの手を、その小さな手で力任せに振り解いた。
「もう、どこの誰に抱かれたって、何とも思いません。……昨日の夜で、私、もう壊れちゃったみたいだから」
「!!」
「さよなら、シャンクスさん。……助けてくれて、ありがとうございました」
一度も振り返ることなく、彼女はタラップを駆け下りていった。
朝日を浴びてキラキラと輝く海とは対照的に、彼女の背中には夜の闇が張り付いているようだった。
「……待てっ……おい!!」
叫ぶ声は、潮騒にかき消された。
シャンクスはそこから動くことができなかった。