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緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】

第2章 落日の蜜、始まりの鐘


「……ベック、か」


薄暗い医務室に、掠れた声が響いた。
ベッドの上のシャンクスが、重い瞼をわずかに押し上げる。
麻酔の残滓が意識を濁らせているようだったが、その瞳には確かな理性が宿り始めていた。


「ああ。気がついたか」


壁際で腕を組んでいたベックマンが、椅子を引き寄せた。


「……ルフィは」

「マキノが連れて帰った。泣き疲れて寝ちまったよ。腕のことは……自分を責めてる」

「はは……あいつらしい。……あの子は……はどうした」


シャンクスの視線が、かつて左腕があった場所を通り過ぎ、ベックマンに向けられる。


「さっきまでここにしがみついてたが、今は船長室で寝かせてある。……惨い有様だった。あの山賊ども、一晩中あいつを……」


ベックマンの言葉が途切れる。
シャンクスは天井を見つめたまま、残された右手をシーツの上で固く握りしめた。
奥歯を噛み締める音が、静かな室内に小さく響く。


「……島に残したのは、間違いだったな」


「ああ、俺も同意見だ。今回の件でハッキリした。あの『蜜』の香りは、並の男を狂わせる。平和な村であっても、悪意を持った奴が紛れ込めば、あいつは真っ先に狙われる」


シャンクスは深く、重い息を吐き出した。
彼女に「日常」を返してやりたいと願った。
だが、その願いが、結果として彼女を再び地獄へ突き落とし、自分自身の腕をも奪うことになった。


「ベック。あいつを……このまま連れて行くぞ」

「……いいのか。この先はもっと荒れる。新世界への航海だぞ」


「ああ。その方がまだマシだ。俺たちの目の届かない場所に置くよりはな。……あいつも、もう一人にはなりたくねェはずだ」


シャンクスの声には、迷いはなかった。
一度は手放そうとしたその運命を、今度は自分の隣で守り抜くという覚悟。


「了解だ。……本人には、落ち着いてから俺が話しておく」

「頼む……。……悪いな、ベック。腕一本で済んだのは、お前らがいてくれたからだ」


「よせ。……寝てろ、船長」


ベックマンは立ち上がり、シャンクスの視界から消えるように背を向けた。
失われた左腕の痛みは、これから生涯、彼に刻まれ続ける。


そしてその痛みは、という一人の女を、何があっても守り抜くという誓いの証でもあった。




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