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小夜の狐神〜天に届くまで〜

第3章 妖狸の惑わし


急いで玄に駆け寄ろうと落ち葉を踏み締める。

「来るな!……此奴に近付くな」

荒々しい玄の声にピタッと足を止める。玄はそのまま妖狸の亡骸を滅失した。既に死んでいるというのに、玄は私を近付けることはしない。いつもならこんなことはしないのに。

黒狐の姿に戻った彼は、林の奥に消えていった。慌てて追いかけるが、どんどん妖力の気配が遠くなっていく。人の足では狐には敵わない。

どのくらいか走り、透き通る水に浸かる玄を見つけた。冷たい川の中で、血に濡れた身体を清めている。

近くに人がいないことを確認し、私も巫女装束を脱ぎ捨て、川の中に入った。足の先から芯まで冷えていく。玄以外の男に触れられたこの身体を清めないと……いや、妖に……。

「玄……大丈夫?」

長く浸かっている玄に声をかけながら近寄る。玄は水の中に潜り、私の股を潜った。首に抱きつくと顔を出し、深いところへ水底を踏み締めていく。

「……昨夜のような可惜夜をもう一度、我にくれぬか?
其方のような傾国は、人も妖も……神ですら放っておかぬ」

「何を言ってるの、玄……」

面映ゆさに玄の毛に顔を埋めた。それは、貴方もでしょう?あれ程にも美しく神々しい美男子は、誰も彼も虜になってしまうだろう。

「……誰彼にも、其方を奪われたくない。
……悋気を起こしてしまった。すまない」

「え、餅を焼いてしまったの?いじらしいところもあるのね」

玄は不機嫌に口を噤み、岸を目指して泳ぐ。陸へ上がるとぶるぶると全身を震わせ、水飛沫を全て私にかけた。どうしていつも、私にかけるんだろう……すぐに巫女装束を羽織り、火を熾せる場所を探した。
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