第3章 妖狸の惑わし
玄に守られながらジリジリと距離を取っていく。眼前で弓を構えて矢を射るなど出来ない。男は未だに笑みを浮かべていた。
「化かされていたのは、巫女ではなく――狐だったか」
「狸風情が。なんと柔弱な……我の力もわからぬとは」
玄は男の首に噛み付き、連子窓を突き破って木々の闇に連れていった。置いていかれた私は急いで町を出る。市女笠を捨て、緑を掻き分けた。
声がする方へ駆けていくと、人に変化した玄がいる。どうして変化してるんだろう……不思議に思いながら玄の隣に駆け寄る。
「下がっておれ。我がこの畜生を駆除する」
「私も……っ」
"私もやる"と言いかけると、玄の鋭い瞳に睨まれる。いつも一緒に戦っているのに、玄は引かなかった。そんな玄を見て妖狸は何が面白いのか、腹を抱えて笑っている。
「俺に触れられたことがそんなに嫌なのか?妖が巫女に心を奪われるなど、さぞ滑稽……」
「物言わぬ屍となれ」
口についた妖狸の血を拭ったかと思うと、瞬きをする間に玄は妖狸の背に立っていた。背中から心の臓に突き刺さった腕が引き抜かれる。腕を振って、酷くこびり付いた血を払った。