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小夜の狐神〜天に届くまで〜

第3章 妖狸の惑わし


ぽつぽつと昨夜の雨が尾を引く町を、飄々と歩く。市女笠で雨を除け、千早の袖で手を隠し、垂れ布と緋袴を揺らす。

破瓜をした私がこの装束を着るのは憚られるが、元々仕えていた神が相手だ。玄は何も言わないだろう。風に流れる巫女装束を少し見下ろし、ゆっくりと歩いていった。

玄は町に下りていない。玄狐の妖力に勘付かれては面倒だからだ。この町で悪さをする妖を退治する。人を化かす妖――妖狸。

「そこの巫女さん。少しいいかい?」

路地に入った頃、後ろから声をかけられた。男の声だ。当たりだといいのだが……ゆっくりと美しく見えるように振り向く。

麗しく顔が整った、少し派手な男。玄ほどではない。僅かに口角を上げ、いつもよりも半音高い声を出す。

「どうされました?麗しい殿方……」

「……狐に化かされていないかい?御前さんの身体から、狐の匂いがするよ」

ピクッと僅かに頬が痙攣する。心の臓が暴れ回っていた。玄の匂いがついてるの?私にはわからない。これだと、妖狸も警戒して姿を現さないだろう。

「すみません……どういうことでしょうか?」

男は距離を詰めてきて、目の前で止まる。肩に触れ、垂れ布の中に手を入れてきた。

「ココが、狐臭いよ?」

「ひゃ…!」

千早の上から撫で上げるように、指を股に滑らす。普通の人ならこんなことはしないだろう。間違いなく、妖狸だ。

「み、巫女の身体に触れるとは、何事ですかっ!!」

神の妻である巫女に男が触れるなど……穢れてしまう。男は飄々と笑っていた。
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