第4章 ないものねだり*💙
挑発してくる。でも目は笑ってない。
「……やめたいって言ったでしょ」
声が震える。樹の視線が初めて揺れるのを見た。そんな目しないで。
ドアがゆっくり閉まって逃げ道が閉ざされたように思う。
「俺、そんな簡単に終わらせるつもりないけど」
玄関の狭さが自然に距離を縮める。
「なんで」
「なんでって……」
震えた声でまた言葉を探している。
「別に、今のままでよくね?」
胸の奥で何かが切れる音がした。
「よくないよ。私、ちゃんとしたいの」
初めてはっきり言えた。樹は驚いたように目を細める。
“ちゃんと”の意味はわかってるはず。
なのに軽い口調で言われる。
「付き合うとか、そういうの?」
「好きなら、そうしてよ」
ついに言ってしまった。後戻りできない言葉を。玄関の狭い空間に沈黙が走る。
樹の目の奥の余裕が崩れてるのがわかる。
「……重くね?」
「重いよ。好きだから」
何それ。もう心はボロボロになってる。それでも今日は負けないから。自分でも驚くくらい、まっすぐ好きって言った。
樹の指先が、無意識に私の手首をさっきより強く掴む。