第7章 大切な記憶
楽しい?
楽しいってなんだろう。
止まった思考を無理矢理働かせて、僕は考えた。
そして思い出したのだ。
子どもの時、手を引かれて家に帰る時間がとても楽しかったこと。
そうなのだ。僕たちは子どもの時には、楽しむことがなんなのか知っていたはずなんだ、と。
「これだったんだ……」
僕が一人呟くと、ぼんさんは心配そうにサングラスを傾けてこちらを見つめた。
「なになに? 何か言った?」
僕はそんな戸惑うぼんさんの手を取って、ごく自然とこんなことを言い出していた。
「あの……! 僕と一緒に、サーカスをやりませんか?」
「ドズルさん?」
そんな衝撃的な出会いのことを思い出している僕の前で、ぼんさんはあの時と変わらない瞳で心配そうに呼び掛けた。
「ああ、ちょっと、前のことを思い出していたんです」
と僕は答えながら、当時はサーカスがなんなのかすらも分からなかったんだっけ、と懐かしむ。
僕はこの怪しそうな男に救われたようなものだった。
ぼんさんはふぅんと言いながら、おらふくんに気遣って潰したタバコを片付け始めた。ぼんさんはいい感じに細かいことを気にしないから、僕がボーッとしていたこともあまり気にしてないんだと思う。
そう色々と思案している内に、テントの外でごうっと強い風が吹いた。なんの知識もないまま張った僕らのサーカステントはそういった自然現象にも脆く、まるで地震がきたみたいに壁が激しく揺れた。
「ここ、大丈夫? 俺たちそろそろ宿に戻った方が……」