第7章 大切な記憶
〜ドズルの視点に戻って〜
「初公演は成功ですね」
僕たち初めてのサーカスは、おおむね成功といったところだった。
けれどもぼんさんは横で椅子に座ったまま、そお? と疲れた様子でタバコに火を点けた。
「だって、ぼんさんだって聞こえていたでしょう? みんながビックリして、みんなが声を出したんです。この愛のない世界で、そんな反応が見れたのはすごいことですよ」
ね? と僕はサーカスの控え室の隅にいたおらふくんを見やった。
「僕もビックリしましたよ。まさかぼんさんが、あんな卑怯を考えてたなんて!」
とおらふくんが興奮気味に言うと、照れなのか癖なのか、ぼんさんはヘラリと笑って点けたばかりのタバコの火を灰皿で潰して消した。
「あのままドズルばかりはなんか気になったから、思いつきで、ね?」
なんてぼんさんは言ったが、あのタイミングでわざわざ紫色のレンガを用意するなんて、前々から考えていたに違いないと僕は思った。
僕は知っている。このぼんじゅうるという男が、この枯れた世界では信じられないくらい沢山の愛情を持っているということ。
あの出会いは、今でも本当に衝撃的だった。スラム街の子どもたちに囲まれる、サングラスを掛けた40近くの男性。あれはどう見たって、子どもに怪しいものを売りつけている不審人物だった。
僕は思い切って声を掛けてみた。もし子どもに悪いことを教えている怪しい人物なら、僕が目指している世界のために、止めなくちゃいけないと思ったから。
「あの、すみません」
と僕が声を発すると、ぼんさんはなんの警戒もないまま振り返ってヘラリと笑った。それで二、三言何か話すとなんと僕にも怪しいものを押しつけてきた。
僕はすぐにいらないと言おうとしたけど……渡されたものを見てビックリ。
「キャンディー……?」
この世界では、不要なものは切り捨てられる。娯楽品、嗜好品、そして昔はあったというお菓子というものすらなくなっていた。
ただ、人間は一切の糖分を断つと生命活動に支障が出るため「キャンディー」というお菓子だけは、特別に販売許可が出ていたのだ。
「え、これ、なんですか?」
僕はビックリしてそう訊ねる。でもぼんさんは、なんてことないという風にサラッと答えたのだ。
「何って、キャンディーよ? 人間、こういうものないと楽しくないよね」
