第5章 隠された戸惑い
そこには、紫がかった黒髪をした成人男性の写真が張り出されていた。罪状は「愛を振り撒いている罪」だそうだ。その他、愛による詐欺や盗みをしたという詳細がないのも、変だなぁと思う一つでもあった。
「この人、何やらかしたんですか?」
と僕が聞いてみても、同僚は首を傾げたまま。
「さぁな。よく分からないが、上がとにかく早めに逮捕するようにと言われている」
「ふぅん……」
そんな会話をして数日。
「奴は裏路地に逃げたぞ!!」
僕はまた、指名手配犯を追いかけて同僚たちと街の中を走り回っていた。
同僚の声に応えて僕が急いで裏路地に駆け込むと、そこにいたのは半裸に赤パンという、いかにも怪しそうな大男だった。
「もう逃げられへんで」
僕が弓矢をつがえながら一歩前に出ると、大抵の犯罪者は怒ったり怯えた顔をする。だけど、その大男だけは違ったんや。
「僕は間違っていない」
その男は、僕を真っ直ぐ見つめたままそう言った。
今まで僕が逮捕してきた人とは全然違うタイプの人間やった。大抵は、俺が何をしたっていうんだとか、よく分からないことを言いながら泣き叫んだりするんやけど。
その男だけは、別の世界の人間かなって思うくらい違う感じがした。
「……どういう意味や?」
指名手配犯の話なんて聞かなくたっていいのに、この時の僕はどうかしていたんやと思う。僕は、その男にそう質問をしていた。
まさか軍兵にそう聞き返されるとは思わなかったみたいで、男はきょとんとした顔になって僕を見つめた。
そして少しして、男はこんなことを言い出したんや。
「もしかして君、本当は心を自覚しているんじゃないの……?」
「ココロ?」
ココロ。心。
男の言葉は聞き取れたんやけど、その言葉自体久しぶりに聞いたから、僕の理解がちょっと遅れた。
それから思い出したんや。僕は子どもの頃、家族に「心は隠すものだ」と言われて育ったことに。
「どうしてそのことを……?」
僕は続きを言えなかった。それを言ってしまえば、僕も同じ「指名手配犯」になることは分かっていたから。
だけど目の前の僕は全てを察したみたいにニカリと笑った。
「じゃあ僕と一緒に来ない? 僕たち、サーカス団をやっているんだ」
そして手を差し伸ばしてきたドズルという男の手を、僕は半分無意識に取ったことを、よく覚えている。
