第3章 胸を突き刺すドロローソ【執行~あの場所】
乙骨から逃げることだけを考えろ――虎杖と術師を戦わせず、かつ自分に引け目を感じさせない提案。
今の虎杖の精神状態的に、人間との交戦は厳しいだろう。
世話の焼ける弟にそれを了承させ、虎杖の後を追う乙骨に【穿血】を発射しようとする。
だが――……。
「――【停止】」
星也の呟くような言葉に、脹相の動きが意思に反して止まり、さらに直哉の蹴りが腹に入った。
今のは【呪言】か? ということは、星也は呪言師?
先ほどは式神を使っていたはずだが……。
乙骨の進路を妨害するつもりだったが、読まれていたようだ。
だが、種さえ分かれば対策のしようはある。呪言師ならば、耳から脳にかけて呪力で守れば防げる。
問題は――……。
直哉に頭を掴まれ、バキッと顔面を殴られた。
その直哉の襟首を背後から掴み、星也が彼の腹に回し蹴りを決める。吹き飛ばされた直哉が壁に大きなクレーターを作った。
「おっも……こんなん蹴りちゃうやろ」
背を向ける星也に、脹相は合わせた手のひらで血液を圧縮する。しかし、横合いから【白虎】が襲いかかり、【百斂】の生成を妨げてきた。
「【赤血操術】――なぜ君がその術式を持っているのか知らないが……」
「別に構へんやろ。【穿血】以外はそんな怖ないし、【穿血】を出すには【百斂】――デカいタメがいる」
瓦礫の中で立ち上がり、直哉が砂塵を払いながら勝ち誇った笑みを浮かべる。
「後は言わんでも分かるやろ。詰みや。死ぬで、キミ。一万歩譲ったかて、星也君どころかオレにも勝たれへんよ」
「僕を下みたいに言うのやめてもらえます? 確かに僕は特級じゃ弱い方ですけど、あなたより弱いつもりはありませんよ」
「あ"ぁ"?」
青筋を立てる直哉と感情の見えにくい夜色の瞳の星也――二人の隙を窺った。