第2章 ぎこちなく響くアン・フェール【禪院家/狩人】
「はぁ……忘れてた。オマエは、九年も俺の気持ちに気づかない鈍感だったな。だったら、その鈍感なオマエでも分かるように はっきり言ってやるよ」
視線を逸らそうとする詞織の顎を掴み、無理やり目を合わせる。
「俺は一秒でも早くオマエと籍入れて結婚したいって思ってるし、子ども作って一生 俺に縛りつけてたいって思ってる」
そう言いながら、詞織の手をとって指を絡め、反対の手で彼女の薄い腹を撫でた。ビクッと身体が震えたのは、きっと恐怖心からだろう。
「気づかなかったか? 結構 態度でも言葉でも示してたつもりだけどな」
グッと顔を近づけると、夜色の瞳に自分の顔が映った。ギラギラと飢えた獣のように、必死で隠していた感情をぶつける男の顔。
「俺の気持ちは、オマエの言う『大好き』なんて言葉をとっくに超えてんだよ。どれだけ嫌がっても、離れたがっても……絶対に逃すつもりはない」
自分の『好き』は詞織の『好き』とは違う。独占欲に支配欲……そんな暗くてドロドロとした重たい感情だ。
「はっ。ここまでくると、もはや【呪い】だな」
ひやかすような真希の言葉に、「そのつもりですけど」と逆に開き直って身体ごと振り向こうとすると、小さな手が伏黒の学ランの裾を引いた。
「……一緒にいて、いいの……? こんなに想ってくれても……わたしはメグと同じだけの気持ちを返せないのに……」
夜色の瞳から恐怖が消え、頼りなく揺れる。縋るような詞織の視線に、また独占欲がドロリと伏黒の中で溢れた。
「『一緒にいていい』んじゃねぇ。『一緒にいてくれ』って言ってんだ。頼むから……俺を置いてどっかに行こうとすんな」
腕の中に閉じ込めるように、強く詞織を抱きしめる。すると、「ちょっと痛い」と苦情が出て少し力を緩めた。
「……で、恵。どうすんだ?」
タイミングを見計らって、真希が最終確認をしてくる。
一度 ちらりと詞織を見て、深く息を吸い込んだ。
「分かりました。受けます」
御三家も権力もどうでもいい。
それでも、きっと真希の言う通り、無駄にはならないはずだ。
この先の戦いにとっても……詞織を守るためにも……。
* * *