第2章 ぎこちなく響くアン・フェール【禪院家/狩人】
「あ……ごめん、なさい……中々 戻って来ないから気になって……立ち聞きするつもりは……」
「詞織……聞いてたのか……?」
あからさまに視線を彷徨わせる詞織に伏黒は駆け寄る。
「……メグ……幼なじみに、戻ろう……」
「……は……?」
詞織に触れようとして、伏黒はその手を止めた。
何を言われたのか分からず、思考が停止する。
「少し、聞こえた。禪院家の当主になるんでしょ? だったら、わたしの存在は足枷になる」
わたしは詩音を愛してる。失うなんて考えられない。
でも、それを許してくれない人は大勢いる。
「だから……」
「俺が『分かった』って言うと思ってんのか?」
自分で思うよりも低い怒気を孕んだ声音に、詞織がビクッと肩を震わせた。いつも淡々として澄んだ夜色の瞳に怯えが走る。
「メグ……? 怒ってるの……?」
反射的に身を引く詞織を柱まで追い詰め、柱に手をついて逃げ道を塞いだ。
「そうだよな。オマエにとって、俺は二番目だもんな」
「それは……」
詞織は伏黒より詩音が大事で、他の何よりも双子の姉を優先する。そんなことは分かりきっているし、今さら どうこう言うつもりはない。
「けどな、俺の一番は詞織……オマエなんだよ。俺は何よりもオマエを優先する。オマエにとって二番だからって、俺の気持ちまで甘くみられちゃ、腹が立つっつってんだ」
ここまで詞織を責め立てるのは初めてだった。
詞織と出会って九年だ。その間に喧嘩をしたのだって一度や二度ではない。それでも……こんな風にキレたことはなかった。