Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「……わかるよ。君の中の『爆豪勝己』は、あの頃の、怖くて残酷な彼のままだよね」
緑谷は静かに、けれど慈しむような眼差しで言葉を紡いだ。
彼女の震える肩は、月日が経っても癒えない深い傷跡を物語っている。
「あれから……僕らには、あまりに多くのことがあったんだ」
緑谷は遠い空を見上げるように目を細めた。
八年前、世界を巻き込んだあの巨大な戦い。
少年だった自分たちが、否応なしに大人にならざるを得なかったあの日々のことを。
「かっちゃんは、あの戦いで多くを失った。プライドも、自分の無敵さも、……命さえも落としかけたんだ。彼はね、その傷だらけの身体で、僕に謝ってくれた。……中学の時、君や僕にしてきたこと、全部、間違いだったって」
「え…? 爆豪くんが、謝ったの……?」
は息を呑んだ。
自分を「無個性」と嘲笑い、絶対的な強者として君臨していたあの爆豪が、誰かに頭を下げる姿など想像もできなかった。
「そうだよ。彼は変わった……いや、変わろうと必死に足掻いてきたんだ。今の彼はね、弱さを知ってる。……誰かを失う恐怖を、誰よりも知ってるんだ。だから、今の彼を見てほしい」
緑谷は一歩、彼女に歩み寄った。
「ちゃんが、今こうしてトップスターとして輝いていることを知ったら、かっちゃんはきっと驚く。……でも、蔑んだりなんて絶対にしない。……むしろ、そんな君に追いつけないって、また空回りしちゃうかもしれないけど」
緑谷は少しだけ悪戯っぽく、けれど切実に微笑んだ。
「過去は消えない。君が受けた傷も、なかったことにはならない。……でも、今のかっちゃんを見て欲しい……お願い。過去の影じゃなく、今の彼を……あそこで必死に生きようとしてる彼を、見てあげてくれないかな」
緑谷の声が、静かに波に吸い込まれていく。
は、ぎゅっと自分の胸元を掴んだ。
彼らが歩んできた、血と涙の軌跡。
自分の知らないところで、彼は一度「爆豪勝己」という皮を脱ぎ捨て、泥を啜りながら本当のヒーローになったのかもしれない。
「……本当の、爆豪くん……」
揺れ動く彼女の心。
愛した『BLAST』と、憎んだ『爆豪勝己』。
その二つの像が緑谷の言葉によって、ゆっくりと一つの「人間」として重なり合おうとしていた。