Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「……っ、爆豪くん……!」
生きて。
お願いだから、戻ってきて。
彼女は祈るように彼の額に自分の額を寄せ、その温もりを心に刻みつける。
あの日、システム越しに触れた唇の記憶よりもずっと、今の彼の熱は切実に彼女の魂を揺さぶった。
――せめて、あなたが目覚めるまでは。
彼の平穏な眠りを邪魔しないよう、は最後にその傷だらけの顔を目に焼き付け、静かに部屋を後にした。
病室内には花を飾るスペースも、彼女の正体を明かす勇気もない。
せめてもの想いを込めて、持ってきた小さな見舞いの花束を、まだダイブしたままの緑谷の隣にそっと置いた。
(……ありがとう。彼を助けてくれて)
そう心の中で告げ、背を向けて立ち去ろうとした、その瞬間だった。
「……あの、すみません!」
背後で、デバイスを外す衣擦れの音が響いた。
ログアウトし、現実へと戻ってきた緑谷が、ベンチの横の花と、去りゆく彼女の背中に気づいて声を上げた。
「……お 花、ありがとうございます」
呼び止められた声に、は肩をびくりと震わせた。
逃げるように去るはずだったのに、身体が反射的に声の主の方へと向いてしまう。
ゆっくりと振り向いたその瞬間、二人の時間が中学時代へと引き戻された。
「……え」
「……あ……」
数秒の沈黙。
病院の廊下の冷たい空気が、二人の間で凍りつく。
緑谷は手に持っていたデバイスを落としそうになりながら、目を見開いて絶句していた。
「…………ちゃん…? なんで、君がここに……」
「……緑谷、くん……?」
記憶の中にある、爆豪の後ろを追いかけては傷ついていた、おどおどとした少年。
彼に「無個性」と蔑まれる痛みを誰よりも分かち合えた唯一の親友。
けれど、彼に個性が発現し、ヒーローへの道を歩み始めたあの日から、二人の世界は決定的に分かたれてしまった。
ニュースで見た『復帰したトップヒーロー・デク』
それが、かつての戦友である緑谷なのだと、彼女の中でパズルのピースが音を立てて繋がった。
けれど、緑谷の混乱はそれ以上だった。
「どうして君が……? いや、でも、さっき僕にメッセージをくれた人は、かっちゃんの本名を知っていて……それに、運営の関係者の方だと……」