Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
『……分かりました。彼もきっと君を待っています。場所は、国立セントラルヒーロー病院のICUです。僕も、そこにいます』
届いた返信を読み、は唇を強く噛み締めた。
もう、迷っている暇はない。
かつての自分が誰であったか、爆豪にどう思われるか。
そんな恐怖よりも、彼とこのまま会えなくなるかもしれないことの方が、数万倍も恐ろしかった。
「ありがとう……Verdeさん」
彼女はログアウトすると、黒いパーカーを深く被った。
震える足で、けれど今度は一度も止まることなく、夜の街へと駆け出した。
「爆豪勝己の知人です」
震える声で受付に告げ、特別に許可を得て足を踏み入れた病院の廊下は白く無機質だった。
指定された病室の前まで来ると、ベンチに腰を下ろしデバイスを装着してうなだれている青年が目に入る。
(……Verdeさん)
緑の縮れ毛。
現実の世界でも彼は、あの仮想世界のミラージュの面影を残していた。
彼が爆豪を支え、自分へと道を繋いでくれたのだ。
は彼を驚かせないよう、音を立てずに病室の扉を開いた。
一歩、中へ踏み出した瞬間に心臓が凍りついた。
視界に飛び込んできたのは、数えきれないほどの管に繋がれ、白い包帯に身を包んだ爆豪の姿だった。
あの傲岸不遜なまでの生命力は影を潜め、人工呼吸器の規則的な音だけが、彼がまだこちら側の世界に留まっていることを証明していた。
「……爆豪…くん……」
かつての呼び名が、嗚咽とともに漏れる。
ベッドの傍らに行き、包帯の巻かれていない彼の手を、両手で包み込むように握りしめた。
冷たくなっているかもしれない、という恐怖。
けれど、掌から伝わってきたのは驚くほどに確かな、生きている人間の「熱」だった。
(ごめんなさい……。私が、逃げ出したりしなければ……)
もしあの日、勇気を出して声をかけていれば。
もし彼に絶望せず、あの入り江で手紙を読んでいれば。
後悔が鋭い棘となって胸を突き刺す。溢れ出す涙が彼の甲を濡らした、その時。
ぴくり、と。
握りしめていた彼の指先が、微かに動いた。
意識のないはずの彼が、まるでその涙に気づいたかのように、力なく、けれど確かに彼女の手を握り返した気がした。