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Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】

第3章 未完の初恋、ログイン不可の心


あの日、公園から逃げ帰ったは、震える手でデバイスを掴んだ。
呼吸は荒く、視界は涙でぼやけ、鍵をかけた自室の静寂さえもが彼女を責め立てるように追い詰めていく。



(……どうして。どうして、あなたなの……)



ログインしてすぐ、彼女は吸い寄せられるように連絡先リストを開いた。
愛おしい『BLAST』のアイコン。
それを見るだけで、彼に踏みにじられた中学時代の記憶が毒のように全身に回っていく。


「無個性」と蔑まれた痛み。
あの頃の彼にとって、自分は塵のような存在でしかなかった。
それなのに、あのアバターの姿で、自分を優しく抱きしめていたなんて。



「……っ、嫌……。もう、耐えられない……」



震える指先で、彼女はその繋がりを断ち切った。
ブロック。
たった一回の操作で、0と1の世界の絆は無機質に弾け飛ぶ。


けれど、それで心が軽くなるはずもなかった。
溢れ出す涙を止められず、彼女はそのまま公式のアナウンスを打ち込んだ。



『ライブ活動を休止します』



理由は書かなかった。
今の自分に、世界を癒やすような歌なんて歌えるはずがない。
自分を隠すために作り上げた「歌姫」という仮面さえ、今は重すぎて支えられなかった。


ログアウトした瞬間、部屋は真の暗闇に包まれた。
数時間前まで確かにそこにあった「希望」が跡形もなく消えている。



「……やっと、会えたと思ったのに……。やっと、独りじゃないって信じられたのに……」



膝を抱え、床に蹲る。
白いワンピースの裾は、あの日彼に見せようと、慣れない外の世界を一生懸命に歩いた証のまま汚れていた。
現実に絶望して、仮想の世界に逃げ込んで、そこでようやく見つけた恋。
けれど、その恋の相手もまた、自分を絶望させた「現実の象徴」だった。



「……っ、……うう、……あぁあぁああ……」



広いマンションの一室に、押し殺した慟哭が漏れる。
バーチャルな海で、あれほど確かに感じた彼の「温もり」は、今や冷たく鋭い刃となって彼女の胸を抉り続けていた。



振り出しに戻っただけではない。


彼女は、もう二度と誰も信じられないほどの、深い闇の底へと独りきりで沈んでいったーー。




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